Inspired by Nikkeinews 20080827 経済教室 宮川 努学習院大教授
政府は、成長戦略の大きな柱として生産性に注目しているが、マクロな財政・金融政策とはことなり、民間部門の生産性向上に対しては環境整備が中心で、経験の蓄積も少ない。
本稿では、その政策について、批判的に分析している。ひとつめの指摘は、生産性向上には前向きなもの(新規設備の増加で労働生産性を改善)、後ろ向きなもの(生産が増えないなかで労働投入の節約や新規投資の抑制で生産性向上を改善)があるにも関わらず、指標管理上では同一の机上で議論されている点。
もうひとつめの指摘は、「競争政策が、生産性向上をもたらす議論では、生産性の低い企業の市場から退出を念頭に置いている」という前提が、実際には市場からの退出がスムーズに行われていない。
米ハーバード大学のアギヨン教授らは、技術レベルの異なる企業が競争環境の中でどんな生産性向上に努めるか、考察している。
技術水準の高い企業
競争的な環境になるほど、競争から一歩抜け出すために一層の生産性向上のために努力する先端的な技術水準から遅れた企業
多少の努力では、現在の競争状況を脱して優位にたてる確率は低いため、生産性向上への意欲を失ってしまう小売業を例にとると、イオンやイトーヨーカドーなどは、ITなどの活用によりつねに流通の効率化を図っている。しかし、中小業者はITを導入しても自分らを取り巻く競争環境がさほど変わるわけではないので、現状維持を選択する可能性があると指摘する。日本の場合は、それでも中小企業が市場から退出するわけではない。
宮川教授は、市場からの円滑な退出を促す政策の必要性を解く。マクロな視点では、競争原理の活性化という視点も重要だが、同時に「競争政策だけで生産性を向上する」というのは視野狭窄な政策のようにも思える。マクロゆえに、競争原理ではなく共創原理が必要な場づくりこそ、支援できるはずである。生産性向上に、イノベーション・クラスターのような共創の場がいかに貢献していくべきか、そんな議論も期待したいものである。
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