Inspired by Nikkeinews 経営塾未来塾 神戸大学大学院教授 石井淳蔵氏
『マーケティングの神話』『ブランド 価値の創造』の著者、石井教授による顧客関係のマネジメント手法の提言。同氏は、野球をたとえにマネジメントモデルの転換を促している。
引用--
私が子供のころ、プロ野球ではエース党首は先発完投も、連投も当たり前だった。しかし、今は投手は分業制となり、先発、中継ぎ、抑えと役割分担がはっきりしている。監督も試合展開を見ながら、球団ごとの「勝利の方程式」にあった投手リレーに持ち込もうと努力をする。しかも目の前の試合だけではなく、優勝するためにシーズン全体を見据えた戦い方を考える。
話は、経営の問題と通ずる。日本のメーカーが抱える問題は、売上高営業利益率が低いことである。日米を比較すると、2倍、3倍の差がある。理由の一つとして、日本のメーカーの顧客に対する関係のマネジメント、とりわけ属人的営業がいまだに主流で、組織的営業が行われていないことに一因があると考える。
組織的営業をうまくやっている企業の事例。ある住宅メーカーのビジネスは、住宅展示場になるべく多くの潜在顧客に来てもらうことから始まる。来場者から得たデータは本社のデータベースに送り、顕在顧客に変わる可能性の高い顧客を発見する。営業マンはその顧客と接触、技術工房に案内する。技術工房は住宅の設計や設備に関する細かな点まで、技術者の話を聞きながら、体験、シミュレーションができる施設だ。さらに住宅完成後の増改築などには顧客センターが当たる。
この例では、ビジネスが
- 展示場
- データベース
- 技術工房
- 顧客センター
の四つのプロセスから成り立っている。最初の二つは、マーケティングの仕事(潜在顧客を集め、同社の住宅に関心を持たせるプロセス)、あとの二つは営業の仕事(顕在顧客と契約にこぎつけるところから、住宅の工事中、さらに完成後も生じるさまざまな顧客の問題解決に当たるプロセス)と役割分担をはっきりさせている。
もうひとつの事例では、営業プロセスを五ステップに分けた上、マネジャーに二つのことをはっきりさせるようにしている。一つは商談中の案件がいまどのステップにあるのか、もう一つは、ステップごとにA=契約できる、B=顧客は迷っている、C=契約は無理の三段階で判断させることだ。こうすることで案件を前進させるのか、撤退するのか迅速な意思決定を行っている。
この二つの例から、組織的営業には、以下の点がひつようなことがわかる。
- 営業プロセスをいくつかのステップに分けて分業を行う
- 営業のミッションは顧客の問題解決であることを明確化、マーケティングとは区別する
- 案件の進捗管理は営業マンではなくマネジャーが担当する
1では自社業務の流れを考えた上でステップわけし、2では営業担当者にマーケティングの仕事をさせないように注意し、3ではステップごとに高まる顧客の問題意識に的確に対応することが重要になる。案件の進捗管理をマネジャーが行うのは、営業マンの思惑にとらわれずに客観的、公正に状況を判断、管理するためだ。
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同氏は、業務の細分化がモチベーションダウンにつながらないかという指摘についても、江夏を例にすばらしい解説を行っている。「江夏は、阪神から南海へ移籍した際、野村監督にリリーフへの転向を勧められたが、頑として受け付けなかった。先発完投こそが投手の誇りと考えていたからだ。しかし、彼は結局監督の申し出に従った。われわれの記憶にはリリーフ大エースとしての江夏である。」役割分担を明確にすることで、人材の魅力が引き出される。同時に、全体像を理解し、将来的なキャリアビジョンのシナリオを描くことが求められるが、分業制×ネットワーキングによるやりがいの向上という考え方に多くの示唆を得た。
同氏が最後に紹介した、大口顧客に対して全体案件管理を行う「顧客関係のマネジャー」の役割も興味深い。大規模な組織的営業を効果的に展開するために、顧客全体を担当するアカウントマネジャーが必要な場合もあり、「案件のマネジメント」と「関係のマネジメント」が顧客の問題解決に当たるための両輪になるという指摘も心にとめたい。
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