Inspired by Nikkeinews 20070323 斉藤惇 前・産業再生機構社長
四年間、産業再生機構は、公的な性格を持ちながらあくまで市場を活用した産業・金融の一体再生に尽力した。この間、貸し手・借り手の双方が社会的使命を忘れていることを痛感。将来にむけて、「資本や、高い教育水準と倫理観を持つ人材の流動性を高めよ」と主張する。
産業再生機構の特徴は、事業と金融機能の処理・再生をあくまで市場原理に基づき完全な民間ベースで行うとの理念に集約される。斉藤氏は、20世紀の社会体制論争の結論を踏まえたものだとする。すなわち、資本や人材の配分について、完了指導の統制的計画経済に任せるのがよいのか、市場原理を使った自由競争体制に委ねるべきかという論争と実験から生み出された結論である。
四年間の挑戦を「職員の若さとプロフェッショナリズムをテコに、多くの金融機関と事業会社が忘れてしまった社会的使命を喚起し、問題の提起、解決策の提示を行うことであった」と振り返る。具体的には、金融機関の資金貸与の判断基準と監視機能、企業側の経営モデルの正当性、外部チェックに対する倫理感覚と社会に対する責任感などの検証である。
- 【貸し手】B/Sの固定資産だけでなく、事業の生み出すキャッシュフローに注目する
(野球ドームでいえば、土地ではなく、そのドームでどのような事業を行うかが重要) - 【貸し手】メーンバンク制度による、リスクの一極化
(多様なリスクマネーやベンチャー企業の存在により、社会全体のリスク分散を図る) - 【借り手】会計上の財務数値を経営データに転換し、事業リスクと利益の関係を定量的に把握する
産業再生機構のストーリーを読み、思い出されたのは豊臣秀長の調整力。まず、彼らは専門的な知見に基づき、財務データの内容を精査するデューデリジェンス(due diligence:資産価値評価)を行った(中立的立場による構造的リスクの可視化)。つぎに、企業価値評価額を超える部分の返済は不可能と見て、これを超える債権の放棄を金融機関に要請した。法的整理という最悪のケースの仮定損失を算出し、短期間での説得に努めたという(債権者(金融機関)への損失負担の説得・合意)。さらに、株主への還元される価値はゼロと設定。ゼロの株主価値企業に新たな出資や貸付を行い、投下資本を実態のあるものに転換、企業価値を復活させるという道筋を株主に示した(株主への還元をゼロとし、残余の企業価値は債権者に変換されるべきとの考えを共有)。
これらの活動が、いかに公的機関として存在したといえ、市場原理のもとに正当化することには困難があったと思われる。しかし、斉藤氏が指摘するように、社会を再生するという情熱とプロフェッショナリズムによって、社会的価値観の共有と実現を達成した。
同氏は、成功の要因を「機構の中立的、客観的立場が法的に担保されていたこと」を挙げて言う。秀長がそうであったように、全体的視点から中立性、客観性、(自己の)透明性を確保することが、仲裁的立場でモノゴトを変革する、要諦のようである。
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