労働人口を取り巻くいくつかのレポートを、収集して分析してみたい。
平成 18 年 6 月 7 日
独立行政法人 労働政策研究・研修機構
これからの雇用戦略
-誰もが輝き意欲を持って築く豊かで活力ある社会-
全体的に、「本格的な多様な知恵の時代の到来」と、「経済活力を生み出す最も重要な要素となる「人」を中心に置く」ことを重視し、経済、厚生、教育などの諸政策の連携の必要性を説いていている。また、EU、OECDのナレッジソサイエティへの対応策としても興味深い。
※参考:EUの取り組み
「ルクセンブルグにおける雇用に関する特別欧州理事会」(通称「EU ルクセンブルグ雇用
サミット」)(1997年11 月)
雇用戦略の中核となる以下の①~④の4つの柱が示され、それ以降(1998 年~)の雇用政策指針に明記された
①エンプロイアビリティ(就業能力)
②起業家精神
③アダプタビリティ(適応能力)
④機会均等
将来、ICT の更なる発展等を背景にグローバル経済化がさらに進行していく中で、周辺アジア諸国等との競争が、製造業の基礎的分野中心のものから高度な技術を要するもの、さらには情報通信産業など高度な知識・技術が必要とされる分野にも拡大していくものと想定される。
こうした中、我が国は、近代工業社会・産業資本主義から多様な知恵の時代へと本格的に移行していくものと見込まれる。知識・技術・技能がより重視され、絶えざるイノベーションが求められる競争及び変化が激しい社会となり、所得格差が大きくなる傾向も強まっていく可能性がある。
また、少子高齢化の進行等により、労働力供給や財政面での資源制約が強まり、資源の有効活用がより強く求められるようになるととともに、地方分権が進展し、地方の経済に対する国の関与が減少すると見込まれる。こうした中で、裁量的財政政策により経済成長を図ることは困難化するとともに各地域において経済・雇用活性化のための努力がより求められるようになる。
さらに、我が国は資源小国であり、将来にわたって社会経済の運営に必要な天然資源を海外から輸入せざるを得ない。また、少子高齢化と人口減少が進行し、貯蓄の取り崩しが進んでいくものと想定される。こうした我が国の置かれた環境からすれば、経済社会の活力及び個人の生活水準を維持・向上させていくためには、製造業や金融、情報通信関連、コンテンツ分野などのサービス分野で生産性を向上させ国際競争力を高めていくとともに、国内向けサービス分野の質を高めることなどにより、国民全体が豊かになることができる社会経済を築いていくことが求められる
当機構において実施した労働力需給推計12によれば、今後、2030 年頃までの実質経済成長率を0.6~0.7%(1 人当たり2%程度)と見込んだ場合、労働力人口は、2004 年現在の6642 万人(労働力率60.4%)から、労働市場への参加が進まないケース13では、現在より約1050 万人減の5597 万人(同53.6%)、労働市場への参加が進むケース14では、現在より約535 万人減の6109 万人(同58.5%)となるとされている。そして、就業促進策を講じることによって、これを講じない場合と比較して、その減少を約500 万人程度抑制する効果が期待できると想定されている。労働市場への参加が進んだ場合でも、2030年には、現在より約500 万人以上減少することとなることに留意する必要がある。
全国ベースの労働力需給推計を前提とした地域別労働力需給推計15によれば、労働力人口については、労働市場への参加が進むケースにおいても、この間の全国の減少(-8.0%)と比較して北海道(-19.6%)、東北(-11.6%)、北陸(-14.8%)、中国(-12.7%)、四国(-15.0%)等ではより大きな減少が見込まれる。
全国の産業別の就業者数については、全体が2004 年の6329 万人から2030 年には5859万人へと470 万人減少する中で、医療・福祉では255 万人、金融保険業及び飲食店・宿泊業では約60 万人増加するなど第3次産業全体では約210 万人強程度の増加が見込まれ、他方、製造業で約475 万人、鉱業・建設業で約120 万人、農林水産業で100 万人の減少が見込まれる。
職業別にみると、専門的・技術的職業従事者(全体で約245 万人増。うち医療・福祉で120 万人増、製造業で55 万人増、情報通信業で約45 万人増、卸・小売業で約25 万人増)、販売従事者(全体で130 万人増。うち第3 次産業で110 万人程度増、特に金融保険・不動産業で約50 万人増、サービス業で約40 万人増、卸・小売業で20 万人増)、保安職業・サービス職業従事者(全体で約155 万人増、第3 次産業、特に飲食店・宿泊業で約95 万人、医療・福祉で約40 万人増)などで増加が見込まれる。一方で、生産工程・労務作業者(約625 万人減)、事務従事者(約155 万人減)、農林漁業作業者(約125 万人減)、管理的職業従事者(約45 万人減)などでは減少が見込まれる。
(1)、(2)で見てきたように、今後は、あらゆる面における変化が激しくなるとともに、知識・技術・技能など人的資源が付加価値を生み出す最も重要な要素となる。さらに、人口減少、少子高齢化の進展による労働力供給面や、財政面での資源制約が見込まれる中、希少な資源の有効活用がより強く求められるようになる。
特に、付加価値を生み出す最も重要な要素である人的資源を有効に活用できるようにすることが重要となるので、人々が保有する潜在能力を最大限に発揮できるようにするとともに、人的資源の質的・量的な面での需給のバランスが確保されるようにしていくことが求められる。
このため、①人的資源が有効に活用され、社会経済の活性化が図られるようにしていくこと、②生活全体に対する人々の満足度及び勤労意欲の向上を図ることにより、我が国の生産性及び国際競争力の向上を図っていくこと、③職業生涯を通じて計画的に能力開発を行うことができるようにし、我が国全体として変化に対応できる人的資源を蓄積していくことが必要となる。
こうしたことを効率的に実施していくためには、以下の対応が求められる。まず、人的資源の有効活用を通じた社会経済の活性化が図られるようにするためには、人々が能力を発揮しがら安心して生活できるようにしていくことが求められる。この実現のためには、その能力を発揮する場である企業、自営、NPO 等各種団体等の活動の活性化を促進していくことや、各個人の意欲・能力・希望に応じて円滑に適切な働く場を得ることができるようにしていくことが重要である。その際、人々が安心して能力を発揮することができるようにするための生活の基盤整備等も求められる。就職困難者の就業を通じた社会参加の促進・支援についても留意が必要である。したがって、企業における雇用の枠組みにとらわれない働き方の推進、人々の労働意欲を高め企業等労働需要側の雇用意欲を高めるための税制や社会保障など雇用関連諸制度における対応、雇用と福祉の連接の確保等が求められる。
また、人々の生活への満足度及び勤労意欲の向上を生産性及び国際競争力の向上に結び付けていくためには、人々の生活のゆとり及び高い勤労意欲を基盤とした個人の職業能力開発努力や、企業における人材育成と企業の技術革新や設備資本戦略とが円滑に結びついていくようにするため、雇用政策と産業政策の連接も求められよう。多様な働き方が進展していく中で、社会保障や税制等諸制度を働き方に中立的なものとしていくことも求められる。
さらに、職業生涯を通じた職業能力開発により人的資源の蓄積が図られるためには、人々が将来に対して不安を抱くことなく安心して職業能力開発を行い能力発揮できる環境の整備が重要となる。このため、学校教育を労働市場と連接したものとするとともに、労働市場と大学・大学院等学校教育の間を金銭的な制約条件無く移動することを可能とするなどによる職業能力開発機会の確保も求められよう。
このように、今後は、直接的に関連する政策単体で対応していくのではなく、政策間相互の連接が図られるようにすることが重要となる。特に、雇用政策は、今後の我が国経済社会の活性化や国際競争力の確保等を図っていく上で最も重要となる人的資源の蓄積と活用や、社会を支える側に回る人々の増加等に大きな役割を果たすこととなる。
極く簡略化した見方からすれば、従来は成長経済の下での長期雇用慣行を前提とし、雇用の安定・維持を主軸に置いた政策が展開され、ある意味で長期的な政策の方向性を明確に意識することなく運営することができた。
しかし、今後は、変化が激しい時代となっていくことから、特に人々の生活及び経済活動の根幹をなす雇用・就業問題への対応については、将来の社会経済の変化の方向性を踏まえながら、人的資源の蓄積及び有効活用や、社会を支える側に回る人々の増加を含めた社会参加の促進等の観点から他の政策分野への働きかけも含めた総合的な対応が求められる。
したがって、以上のような対応を柱としつつ、従来の企業への働きかけを主軸に置いたものから個人への働きかけも主軸に置いたものとし、また、雇用・就業分野以外で必要とされる対応も含めた幅広い観点からの検討を踏まえた上での、新たな積極的雇用政策の方向性を提示する必要性が高まる。
以上述べたように、本格的な多様な知恵の時代への移行に当たっては、それぞれの政策が経済活力を生み出す最も重要な要素となる「人」を中心に置いたものとされるとともに、政策間相互の連接を図りながら社会経済や人々の生活などあらゆる面での持続性が確保することが求められる。
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