Inspired by Nikkeinews 20080301 世界を語る
「ケルトの虎」と呼ばれた90年代の目覚ましい経済成長。一人当たりGDPもすでに日本を上回っている。成功の背景には、積極的な外資誘致と大量の外国人労働者受け入れがあった。70/80年代に痛みを伴う改革を推進、官僚制度の見直し、通信・輸送インフラの整備、初等・中等教育の無償化など教育にはとくに力点を置いた。
1.移民の受け入れ
外国人の受け入れも積極的に進め現在は外国人の比率が14%。これによりアイルランド人で付加価値の高い生産に従事できる労働者が増え、経済が底上げされた。
移民受け入れでは、言語の異なる人々への公共サービスの提供で負担も増え、不満もあった。しかし、移民も含めた市民段階が住居や教育、医療などの相談にのり問題解決にあたった。現在も大量流入を必ずしも快適だと思わない側面もあるが、全体として国の役になっているという認識がある。
デンマークやオランダなどの福祉先進国では、外国人の受け入れる負担が大きく、不満が蓄積している。しかし、異なる言語や文化背景を持つ移民や社会に多様性とエネルギーをもたらす。グローバル化による人材流動の動きは、21世紀の国家の在り方を規定するもの。出身国のほかに共通の理解の土壌を見つける努力が、これからの国家成長には欠かせない。そこで生まれた市民を包括するだけではなく、移民に門戸を開き、利益分配をする環境を整えなければならない。
2.外国企業の誘致
人口が少なく天然資源に乏しいアイルランドの経済の発展は輸出ベースの産業開発がカギとなることから、1950年代にアイルランド貿易委員会を設立し、エレクトロニクス、エンジニアリング、医薬品など輸出志向の成長部門の産業を奨励した。また開発の遅れた地域の再開発や、税金を優遇することで外国の企業を誘致するなど、経済政策を強力に行なった。
研究開発に力を注ぎ、アイルランド人の勤勉な国民性と、さらに外国で就労していたアイルランド人が逆に経験や知識を持ってアイルランドへ戻り強力な労働力になったことにより、1990年代までに驚異的な経済の拡大をもたらした。
「小国である自分たちがグローバル化に生き残るには、つねに革新的であること、強い分野を持つこと、高等教育への投資を惜しまないこと」、欧州の小国諸国は、グローバル化によってもたらされた「存在意義」という大きな問いと、しっかりと向かい合っているように映る。
アイルランドの取り組みは、堺屋太一氏の「移民受け入れ論」を彷彿させる。同氏は「現在は、人口減少の初期段階。高齢者の雇用拡大で悪影響は防げるが、2020年以降は急速に困難が広がる。この10年間で、人口減少後期に備えて、移民政策と出産政策の構築に取り掛からねばならない」とし、移民受け入れ論への心理的な不安に次のように対峙している。
グローバル化により、国家の概念が変化した。モノ、カネ、情報、ヒトの流動性が急速に高まっている。そこでは、知恵の値打ちを創る人がどこに行くかで国の繁栄が決まる。そうした価値の中核を築く人は各界100人程度、その国際的な誘致合戦の時代になる。
ただ、この100人の周囲には1000人のディープサポーター(専門的支援者)がいる。さらに、その周りに興行の宣伝や、観覧飲食など関連産業の1万人がいる。そしてこの1万人余りを支えるには行政や、交通、医者をはじめとしたサービスを提供する10万人の都市労働者が必要になる。高度な人材だけを入れればいいという議論があるが、実際には両方が必要になる。
移民受け入れにはコストや手間が発生する。日本語を学びやすい言語にし、相互理解を高める努力が欠かせない。年間50万人、10年間で500万人など漸次的に受け入れて、制度を発展させていくべきだろう。
これらの努力によって、「外国人犯罪」「日本文化の消失」という不安を解消できるはずである。
私たち日本人も、ひきこもっている場合ではない。グローバル化のなかで資源ない小国日本がいかに存在価値を発揮し続けるのか、この問いに向かい合わなければならない。
資本主義への暗黙的な拒絶感は、グローバル社会の発展に必要な感性的バランス感覚から来るのかもしれない。この感性を信じ、外国人受け入れのコミュニティづくりを進めていく、そんな機会を探っていきたい。
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