Inspired by 2008/01/12, 週刊東洋経済「世界を制するノキアはフィンランドにこだわる」
低価格の携帯電話で新興国市場を掌握するノキア。だが開発・生産体制は意外にも自国志向が高い。
世界におけるノキアのシェアは伸びる一方である。原動力は、中国やインドといった新興国での躍進。日本の端末メーカーが攻めあぐねた新興市場を寡占し、力強く成長するノキア。製紙業から始まった創業142年のこの老舗企業は、いまや世界でも指折りのグローバル企業だ。海外売上比率は実に99%余り。自国市場への依存度はゼロに近づく。
だが、ひとたび組織に目を向けると、ノキアは驚くほど“内向き”だ。総従業員数5万人のうち、3割弱が今でもフィンランドで働く。国別従業員数では最多だ。高福祉のフィンランドでは労務コストが高い。給与や福利厚生費など製造業における労務コストは米国や日本の1・3倍。
1. 産業クラスターへの投資・支援
それでも、「母国にはR&Dの素地がある」という。フィンランドでは、ノキア社員の6割弱がR&D(研究開発)に従事している。実はフィンランドは世界屈指のR&D大国、政(R&D支出総額はGDPの3・45%)。イスラエル、スウェーデンに次ぎ世界3位の高水準。「北欧諸国の強みは、小国である分、産官学の協力体制が取りやすく、融通が効く点にある」政府関連で最大規模のR&D投資を行うフィンランド技術庁は、投資対象を産業クラスター(集団)に限っている。複数企業による共同研究のほうが業際や学際の壁を超えやすく、未開拓の分野や技術が育成しやすいためだ。
参加企業もノキアのような大手から新進ベンチャーまでと幅広い。「日本でも産業クラスターはあるが、参加企業は固定的。フィンランドのほうが新進企業を育てる機運が強い」。先日発表されたPRISMでも、上位企業が固定化している点が指摘されていた。欧州で、独自技術を持つベンチャーが次々を成長を果たしている姿とは大きなギャップがある。
ヘルシンキから北へ600キロメートル。人口約12万の都市オウルには、ワイヤレス技術関連を中心とした500以上ものハイテクベンチャーが密集し、オウル大学や国の研究機関であるVTT、こうした研究機関からスピンアウトした企業を育成するインキュベーターが、プロジェクトを通じて連携し合い、大きなクラスターを形成している。「ノキア、大学、VTT、ベンチャーがワイヤレス技術というフィールドで同時に開発を進め、それを自治体がサポートしている」。
ノキアはこういった官民挙げてのR&Dに参加することで、社外の新技術を吸収する。クラスターを組んだ企業の独自ソフトを端末に搭載した例もあるという。ノキアはその成果を自社工場の生産に生かす。携帯端末業界では、EMS(電子機器製造請負サービス)業者に生産委託する企業が増えているが、ノキアの内製比率は、実に75%に及ぶ。
2. 経営層のダイバーシティ促進
ただし優秀なエンジニア確保が企業生命を左右するだけに、人材面では国際化が進んでいる。ノキアでは、今や高級管理職の45%が外国人で、その比率は年々上昇している。90年代に激変期(最大貿易国ソ連)を経験。コングロマリットからGSM技術に投資を傾注した。そのとき、重要な開発拠点に選ばれたのがオウル。フィンランド政府も、不況期に失業対策に追われながら産学連携に予算を惜しまず、現在の産業クラスターの素地を作った。日本もノキアとフィンランドの判断力、決断力に学ぶべき面があるかもしれない。
「優良技術を持つベンチャー」のあふれる意欲や才能を吸収する産業クラスター、判断力・決断力を高める経営のダイバーシティ促進。欧州に共通する、イノベーションの型が見え隠れしている。
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