Marco Iansitiの論文 (Outlogic 杉本氏訳)
■ビジネス・エコシステムで価値を創出する(by Marco Iansiti)
HBS Working Knowledge March 8, 2004
Creating Value in Your Business Ecosystem
キーストーン(keystone:多数のものを結び合わせる要)とエコロジー(生態環境)のメタファーは、自分自身のビジネス環境を理解するのに役立つと、Marco Iansiti教授とコンサルタントのRoy Levien氏は主張する。
現代のビジネスにおけるウォルマートとマイクロソフトの支配力は、創設者のビジョンや熱意から、その企業の激しい競争的な姿勢まで、幅広い多くの要因に起因する。しかし、この2社のまったく異なった企業のパフォーマンスは、企業体そのものよりももっと大きなもの、すなわち、それぞれのビジネス・エコシステムの成功によってもたらされたと見ることもできる。サプライヤーやディストリビューター、アウトソーシング企業、関連製品やサービスのメーカー、技術の供給者などの緩やかなネットワークであるこれらのビジネス・エコシステムは、企業が提供する製品やサービスの創出とデリバリーとの間で、相互に影響しあっている関係にある。▽キーストーンの優位性-キーストーン組織はビジネス・エコシステムで決定的な役割を果たす
キーストーン組織は基本的に、彼らの属するエコシステムの全体的な健全性を改善しようと企図する。例えば、ウォルマートの調達システムやマイクロソフトのWindowsオペレーティング・システムなどを想像してほしい。彼らは、他の組織も活用することになるエコシステムにおいて、共通資産となる確固として予測可能な一連のものを提供することによって、全体最適を達成しようとするのである。
キーストーン(多数のものを結び合わせる要)は、ネットワークへの参加者を相互に結びつけるための複雑な作業をシンプルなものとし、あるいは、第三者による新製品の創出をより効率化することによって、エコシステムの生産性を向上させることができる。キーストーン企業は、技術上のイノベーションを継続的に導入し、ネットワーク参加者が新しく不確実な状況に適応できるよう信頼できる判断基準を提供することによって、エコシステムの堅実性を高めることができるのである。彼らはまた、様々な第三者の組織に対してイノベーティブな技術を提供することにより、エコシステムにおけるニッチの創造を促進することもできる。このように、エコシステムの健全性にとって不可欠なキーストーンの重要性は、反面で、その存在がなくなってしまうと全体のシステムが壊滅的に崩壊してしまう可能性を示唆している。電気通信機器のサプライヤーにとってのエコシステムが、WorldCom破綻によって大きな影響を受けたことが、その一例である。全体としてのエコシステムを継続的に改善し続けるには、キーストーン企業は自らの存続と繁栄を確保しなければならない。彼らはエコシステムの健全性を利他的な(altruistic)理由で促進するのはない。あくまで、自分自身の偉大な戦略のためにそれを行うのである。
キーストーン企業は多くの方法で、有利なポジションに身を置くことができる。生物学上のエコシステムと同じように、エコシステムの小さな一部分にしか過ぎなくとも、システム全体に影響を及ぼす役割を実行することができるのである。例えば、マイクロソフトのパーベイシブな(あまねく浸透する)インパクトについて考えてみよう。同社はコンピューティングのエコシステムにおいて、ほんの小さな部分を担っているに過ぎない。同社の収益規模も従業員数も、このエコシステムにおける合計数値の約0.05%を占めているだけである。しかし、時価総額をみると、そのエコシステムに占める割合は極めて大きい。通常、キーストーン企業がどれだけ強力な地位を築いていようとも、その比率が0.4%以上になることはないのであるが、マイクロソフトの時価総額は、ソフトウェア企業全体の合計時価総額の20-40%もの比率を占めている。
一般的にいって、効果的な「キーストーン戦略」は2つの部分からなっている。その1つは、エコシステム内において価値を創出することである。キーストーン企業は効果的にこれを行う方法を見つけ出さない限り、参加者を引き付け維持することが困難になる。キーストーン戦略を構成するもう1つは、エコシステムへの他の参加者と価値を共有することである。これに失敗したキーストーン企業は、一時的には繁栄することがあったとしても、最終的には見捨てられることになる。
キーストーン企業は数多くの方法で彼らのエコシステムのために価値を創出することができるが、最初の要件は通常、「プラットフォーム」の創出に関わっている。ここでいうプラットフォームは、エコシステム内の他者にソリューションを提供することのできるサービスやツール、技術の形式であるところの資産のことである。このプラットフォームは、台湾の半導体製造会社がコンピューター・チップの設計会社に対し、自前のシリコン・ウェーハー工場を持たなくとも済むように提供している設備のような物理的な資産であることもあるし、Windowsソフトウェア・プラットフォームのように知的資産であることもある。キーストーン企業は、エコシステム内の価値創出の大半については自らが関与しない姿勢でいるが、彼らはコミュニティの存続にとって決定的に重要な価値の創出を積極的に行うのである。
キーストーン企業の成功にとっての第二の要件は、彼らが作り出した価値をエコシステム全体で共有し、他者に対する寛大さと自ら守るべき価値の必要性とのバランスをとることである。このバランスをとることは、見た目ほど簡単なことではない。キーストーン企業は、彼らのプラットフォームの価値、そして、それを共有する参加者数によって変わっていくその創出と維持に関わるコストを意識しておかなければならない。これによってキーストーン企業は、彼らのコミュニティと価値の余剰(surplus)を共有することが可能になる。インターネット・ブームの際には、多くの企業がこの理由で失敗した。つまり、顧客数の増加に伴ってキーストーン・プラットフォームの理論上の価値は高まったのであるが、一方でその運営コストも増大していたのである。多くのB2Bマーケットプレイスは、売上を伸ばし続けたが、同時にマージンを縮小させており、結果的に彼らのビジネスモデルは破綻へと至ったのであった。
エコシステムの中で効果的に価値を創出しそれを共有しているキーストーン企業の良い例が、eBayである。同社は多くの方法で価値を創出している。また、ネットワーク参加者の生産性を向上させ、潜在的な参加者をそのエコシステムに引き付けることを促進する、優れたツールを開発してきた。例えば、新しいseller(売り手)がプロフェッショナル仕様でオンライン・リスティングを作成するのを支援する“eBay Seller’s Assistant”や、自宅のパソコンから膨大な数の商品を追跡・管理できるようにする“Turbo Listerサービス”などが、そうしたツールである。同社はまた、システムの安定性を高めるための、パフォーマンス基準を設定し維持している。買い手(buyer)と売り手は、このシステムの信頼性を示すランキング情報を提供できるように、相互に評価を行う。一貫して高い評価を得ている売り手は、『PowerSeller』ステータスを得ることができ、将来の取引も円滑に進めるのが容易になる。
eBayはさらに、そのエコシステムのメンバーとともに作り出した価値をメンバー間で共有している。同社は利用者に対して、彼らの取引活動をコーディネートすることの対価として、モデレート料金を徴収している。『PowerSeller』ステータスのようなインセンティブは、エコシステム全体に便益をもたらす売り手にとっての価値観を強化する。これらのパフォーマンス基準はまた、ネットワークのコントロールの大半をユーザーに委任しており、同社が費用のかかる中央監視やフィードバック・システムを維持する必要性を大幅に削減する結果となっている。eBayが取引当たりで課金する手数料率は7%を超えることはない。通常の小売が30-70%のマージンをとっていても、eBayは十分に収益のあがるビジネスを展開している点はここで強調しておく必要がある。同社は価値を共有することによって、自らの健全なエコシステムを拡張し続けており、持続可能な方法で繁栄しているのである。
Copyright © 2004 President and Fellows of Harvard College
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