Nikkeinews 20060109 経済教室『技術戦略の強化急げ』by坂村健東大教授
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「日本は、技術事態の水準は世界トップクラスでも、それをビジネスや産業、さらには国力にまでつなげる、テクノロジーマネジメントが弱い。マネジメントをこなす人材の育成が急務である。米国の国家戦略のすごいところは、最初の研究開発の段階を軍関係の予算によって行うことである。予算規模の大きさもさることながら、なにより有効なのは「敵」との強壮が前提のため、研究の過程で挑戦がが許されるはんいが他の予算よりもはるかに大きいという点にある。研究開発の段階では失敗も多い。日本のように形式的に「成功」が義務付けられる研究開発予算の出し方では、大胆なことができない。」
「米国では、初期段階で多額の軍事研究費が投入される。そこで成功したものについては、軍による調達がインセンティブになり、研究者がすぴのふしてベンチャーを起こし、適切な時点で技術を商業公開して事業規模を一気に拡大し、市場を支配する。中村修二氏も米国の大学で紫外線LEDの開発を行っているが、スポンサーは米国防総省である。たんそ菌などの生物テロの探索探知機のために使うというのが理由になっているが、当然光ディスクのピックアップなど民生面への波及効果は大きい。」
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ここで重要なのは、失敗の多い研究開発の段階の予算を、誰がどのような項目として捻出することが、国家戦略として最適であるかということだ。
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「ところで近年ひじょうに興味深いのは米国式グローバルスタンダードの概念が変わろうとしていることだ。従来の力のあるものがデファクトスタンダードの座を勝ち取り、勝者の権利として独占も許される・・という米国流ばかりではなくなってきた。その典型が米軍が進めているCOTS戦略(ICT関係の調達で活用)である。これは民生品の軍事転用のことで、軍用品調達をオープン化し、民生品の中から質の高いものをより分けて使うことでコストを削減しようという考え方だ。特定のメーカーに頼ってつぶれたりしては困るから、独占されないISOのようなオープン性が保証されたスタンダードに乗って複数メーカーが作っていることが重視される。」
「米軍の姿勢の変化の裏には、パソコンが、先端技術商品だった時代は終わり、ユビキタス、モバイルなどの新しいコンピューターや、その上の概念としてのネットワーク、さらにグーグルのようなサービスが主役になろうとしている・・、という認識がある。標準化は、国や企業の利害関係が複雑にからむ「技術外交」とでもいうべき、駆け引きや妥協の結果である。そういう社会的な営みであることを理解し、社会変化が標準の変化を生み、産業の変化が生まれるという、変化のスパイラルのなかで、どう舵取りするかという、テクノロジーマネジメントの重要性が増している。」
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さらには、研究開発によって生まれた事業の種を、いかに社会変化の動きを感知し、標準技術としての意味づけを行うか、そのための「技術外交」技術が重要であることを指摘している。
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「日本では、テクノロジーマネジメントをこなす人材が不足している。技術系の管理職といっても、人事マネジメントとかオペレーションマネジメントにとどまる。長い実務経験により素養を身につけている人材はいるが、「経験知」頼みではどうも効率が悪い。とくにICTのように技術の進展が早い領域では、経験知での対応は難しい。」
「たとえば、ユビキタス・コンピューティングでは、世界の中の大量のコンピューター要素が状況を自動認識し、その認識をもとに協力して最適制御するというシステムモデルである。すでに要素技術は色々開発されているが、最後のステップとして状況情報を活かすとはどういうことか、また関連する制度設計をどう行うかという応用・運用に関わる部分が残っている。たとえば、ある商品に関する情報の正しさをどう担保するか、それに誤りがあった場合の責任の分解点をどうするかを考えなくてはならない。そのような人材が求められているのである。」
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最後のステップで、いかに多様な人材が英知を結集するかが鍵を握っているようだ。坂村氏は、長期的には教育、人材育成での解決を求めるが、短期的な解決策として注目するのが、blogやWikiなどのICTの活用である。
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「blogやWiki(誰でもホームページの内容を書き換えられるシステム)を使い、組織内で機動的な協力体制を確立する。社内掲示板で困ったことを投げかけると、法律やマーケティング、法律の専門家などがコメントし、案件ごとに部ログに必要な知見を持った人間が書き込み、文書をWikiでまとめていくような体制である。」
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本投稿は、イノベーションとナレッジ・マネジメントを考える上で、大変示唆深いものである。
1. 研究開発段階での挑戦をいかに担保するか
2. 標準化の対処が産業や社会を左右するというメカニズムの理解(ゆえに、標準化の考え方への着目の重要性)
3. 技術外交を行う、マネジメントスキルや人材の必要性
4. 要素技術を活かす社会科学領域について、多様な専門家の知を結集するシステムへの期待
ナレッジマネジメントの専門家は、ますますイノベーション領域での貢献を求められていくだろう。3、4への期待にどう応えるのか・・・、むむむ腕がなる!
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