Inspired by 3M『イノベーターたちの愉快な挑戦』
1902年、ミネソタ州でベンチャー精神あふれる五人の起業家により、ミネソタ マイニング アンド マニュファクチャリング カンパニーが設立された。ミネソタ州は、スカンディナ人が入植して開拓した土地。スカンディナ人、日本人は、ともに蒙古人の血が流れている。コツコツとしつこくやりぬく、明治人のような気質がある。
起業当時は、研磨ホイールや砥石用に使われるコランダム(鋼玉)の採掘を事業としたが、品質が悪く、事業はうまくいかなかった。しかし、あきらめず、さらに投資してサンドペーパーの製造販売に事業転換する。当時、サンドペーパーの製造は先端技術の領域で、何の技術の蓄積もなしに参入した結果は、惨めなものだった。1914年になり、初めて競争力のある酸化アルミ研磨粒子のサンドペーパーの開発に成功。そのとき、輸入していたガーネット研磨粒子の脱粒が原因で、返品の山を築く大変な品質クレームが発生、やっとのことで解決をする。この経験をもとに、3Mの研究開発の原典とも言える、四帖半の品質管理主体の研修室が設置されたという。
その後、最初のヒット製品として、「耐水研磨紙」が登場。Ford社の車体の練磨に採用され、やっと事業が軌道に乗り始める。第二のヒット商品は、スコッチ・マスキングテープで、これもFord社のツートンカラーのマスキングに採用された。これが、現在1000種類もの粘着テープの元祖である。
ポリッシング・ペーパーからマスキングテープへ、そして道路標識用反射シートへと、粘着テープの技術を使った技術が開発されるが、これは馬車から車への社会動向をいち早く捉え、新しいニーズを取り込んだ成果でもあった。
接着剤、粘着財、物理的接合のイノベーションは、テープ(ビデオ、セロファン、オーディオ)、反射シートなどの多数の新商品開発を実現している。テクノロジー・プラットフォームと呼ぶ、基礎技術領域から、要素を複合化し、より模倣が困難な独自性のある商品を生み出し続けている。接着財・粘着財は、サンドペーパーの時代に始まった、もっとも古くて、もっとも新しい技術領域とされている。
- マックナイト氏が確立した、企業文化と研究開発
3Mの企業文化が語られるとき、初代社長として、社長、会長を44年間の長きにわたり務めたウイリアム・L・マックナイトの考えが色濃く反映されているという。彼は、マスキングテープの開発者であるリチャード・ドルーが、開発の目処が立たず、元の仕事に戻るよう指示されていたにもかかわらず、隠れて開発するのを垣間見て、「失敗を恐れず、自分の考えに基づいて挑戦する姿勢を大切にし、自主性を持って行動する社員を多数擁することが企業活性化の源にある」と考えた。彼の経営哲学は、「個人のイニシアティブ」「リスクテイキング」「失敗する自由を奨励する」に凝縮されるという。
一方、マネジメントのあるべき姿として、自主的に行動する部下に対して忍耐強く、風から支えるスポンサーとしての姿勢が求められるとする。研究開発では、とくにこれが大事で、「船長は血の滲むほど、舌を噛む」という言葉が3Mではよく引用されるという。
※毎年制定される「グローバル・ビジョン」には、マックナイト氏の言葉から採用される(例:3M社ならびに社員に対して、顧客の接触がすべて快い経験となるようにする・社会と自然環境の尊重・・など) - アイデアの尊重
3Mには、11番目の戒律がある。「汝、アイデアを殺すなかれ」というもの。一見奇想天外なアイデアが成功するということを学んだ3Mは、アイデアを常識という凶器で殺さないように、様々な制度を設けている - プロダクト・チャンピオン
アイデアの事業家は、アイデアを発送した社内起業家が、企画提案書を携えて、事業部の委員会に出席。事業化を進めるかどうかについての評価を受けることからスタートする。企画提案が受理されると、マーケティング、技術、製造、財務の各部門の人材がリクルートされ、発案者をリーダーとして、「ミニカンパニー」のようなチームが作られる。この発案者をチャンピオンと呼ぶ。
企画提案が正式に承認されると、プロジェクトに昇格。年間の進捗状況を見たうえで、それを継続するかどうか決定する。商品化が成功し、製品を市場導入した後、一定期間を経て、事業部と同様の財務基準が課せられるようになる。このように、プロジェクトは製品部へ、さらに事業部へと昇格していく。 - スポンサーシップ制度
社内起業家がアイデアを事業家使用とする場合、優れたアイデアも予算や人材の面で既存の組織の協力を得られず、早い段階でつぶされることがある。しかし、3Mでは逆境によってアイデアを葬り去らないように、イノベータが様々な障壁を超え、様々な支援を得られるよう、3Mの管理職はプロダクトチャンピオンを支えるスポンサーとなるよう奨励されている。スポンサーシップは明文化されたものではないが、部長レベル以上の管理職の業績評価には、スポンサーシップとしての行動も評価要件の一つとなっている。
スポンサーには、「イノベーターの保護、育成、支援などのリーダーとしての役割」が強調され、「支援はするが口は出さない」「善意によって、イノベーションをつぶさない」など介入の自己統制が求められる。
スポンサーの持つべき資質とは、第一に信念、第二に忍耐、そして第三に一時的失敗と致命的失敗との際を見抜くことがあげられている。 - 創造と革新の世界をひろげる15%ルール
技術者は、自分の労働時間の15%をl、自分に与えられたテーマとは無関係でも、個人的に興味を持つビジネスや社会に役立つ夢の研究に使うことを許す、不文律がある。
15%ルールでは、上司に報告する義務はない。他の技術者の研究開発支援に使ったり、組織を超えて新製品の立ち上げに協力したり、興味を抱いた別の研究部門に出向いて研究することもある。背景にはオープンなカルチャーがある。 - ブートレッキング
技術者が上司に研究を中止するよう命じられた課題を上司に隠れてひそかに続けることをさす。上司は、承知していて見て見ぬ振りをする、陰から支援する。 - ジェネシスプログラム
事業部門の研究所を中心に、市場ニーズに応じて顧客を対象にした製品開発と製品技術開発を行っているが、アイデアによっては事業部門の戦略に適合しないため、予算の捻出が困難な場合が発生する。こうしたアイデアを見逃さないように考えられたのが、「ジェネシス・プログラム」。ここでは、アイデアを委員会に提出し、認められた場合は、具体化にむけての研究資金がコーポレート予算から助成される。
最近のコメント