Inspired by Nikkeinews 20070820 経済教室 デイビッド・オーター MIT准教授
先進国で所得格差が拡大しているのは、高度な教育を受け抽象思考が必要な仕事をする労働者の生産性は、事務的な仕事がコンピュータ化されたことで、ますます向上する一方、高齢化に伴い自動化されにくい対人サービスも拡大している。移民の抵抗感の強い日本では、とくに肉体労働のような労働集約型の仕事の需要拡大が課題と指摘する。
同氏は、規則性のある業務(情報の分類、整理、検索、製造現場の組み立て、監視など)はコンピュータが肩代わりする一方、規則性が解明できない業務が拡大しているとする。その一つが、「抽象思考」。仮説を立てる、説得力のある論拠を寝る、新しいアイデアや製品を考案する、部下を管理しやる気を引き出すなどの作業には、創造性、直観、洞察力が不可欠である。これらの領域について、コンピュータはいまだ初期段階にあり、今のところ抽象思考を要する仕事は高度な教育を受けた創造的で頭のいい人たちに任されている。
また、コンピュータが苦手とするもう一つの領域は、対人サービス。トラックやタクシーの運転手、接客係、警備員、清掃員など、人手を要し、その場で臨機応変に対処しなければならない類の仕事も、需要が拡大、比率が高まっている。とくに日本は、高齢化で対人サービスの需要が増えている。多くの先進国では、こうした職業を移民が引き受けてきた。しかし、日本のように、移民に抵抗がある国では、おおむね若手労働者が、低所得で生産性の向上しにくい労働集約型の業務を担っている。
タクシー運転手などの労働集約業務が、現状に比べて創造的なタクシーサービスに進化したとして、大きく所得が向上する可能性はあるのだろうか。ソースは失念したが、ビルゲイツなどの抽象思考で高所得を獲得する人々は、無くすことのできない労働集約型業務へ付く人々へ、所得の再配分を図ることが重要とする考え方がある。
知識社会が生み出す階層問題。抽象思考を要する仕事が、高度な教育を受けた人によるものだとすると、教育の機会によって階層が決まることになる。「格差は遺伝する」という本も出ているようだが、所得によって享受できる教育の品質が異なるとするれば、階層の固定化が進みやすい。
また、日本のように少子化によって高等教育を受ける人々の比率が高まる一方で、労働集約型の対人サービス需要が拡大すると、教育を受けていても低所得の業務に就く可能性もある。ロスト・ジェネレーション世代のニート問題とも関連する。
「誰もが考える社会」と「誰もが高所得を得る社会」とは別ではあるが、ナレッジ・ワーカ社会を構築することの意味を、所得格差の視点からも見直す必要がある。
最近のコメント