Inspired by Nikkeinews 20090427 核心 コラムニスト土屋英夫氏
オバマ大統領がジョージタウン大学で行った経済演説。「上位1%の所得がロケットのように上昇し、平均的勤労家計の所得が減るような経済は長続きしない」と語った。ニューヨークでは、法務大学院卒の金融のプロが、職を失い、高額の住宅ローンを抱え、ドライバーの仕事に就くという人もいるという。かつての富豪妄想から目覚めて地道な暮らしを始める人々。
金融危機の前後で、「お金持ちを貧乏にしたところで貧乏な人がお金持ちにはなれない」というサッチャー元首相の言葉の意味は大きく変化した。老大国のエンジン再活性化のために進めた、公営事業の民営化、規制緩和、福祉の抑制・・・。「強者への賭け」と呼ばれる、新自由主義の価値観が、先進国から途上国へと広がった。
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技術革新が生み出した格差
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今では、格差を生む元凶とされる「強者への賭け」だが、1979年サッチャー政権発足当時は、現在とは異なる、経済・社会的課題を抱えていた。インフレと不況が同居するスタグフレーション、財政赤字、ストの日常化など、一部権益に偏った経済モデルがこう着状態に陥っていたのだ。この不満が爆発する形で、イギリス人の「鉄の女」支持エネルギーが広がった。昨今はケインズ離れが進むが、彼は70年代後半のこう着経済を動かすのは「不確実な未来に挑む、企業家のアニマル・スピリット」だ考えた。資本主義のエンジンとして、民営化や規制緩和など競争原理が働く市場の領分を広げ、企業家を奮起させるメカニズムの重要性を説いた。背景には、それ以前に「工業化による経済成長」が所得格差を縮小するというの経済理論が実証されていたことがあるという。工業化の初期には、格差が一時広がるが、農村から都市への労働力移動が定着すると部門間格差は縮まるとされた。
しかし、IMF(国際通貨基金)が2007年に出した「グローバル化と不平等」のリポートは、過去20年に世界の大半の国で格差が広がったと指摘した。技術革新、対外直接投資などの資本のグローバル化がその主因であるという。
「工業化」は格差を縮めたが、経済の「情報化」「サービス化」は格差を広げるのか?
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経済思想が生み出した格差
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一方、格差を左右するのは経済思想だと説くのはポールマン・クルーグマン教授。その象徴である税制や社会保障制度が肝だという。20-50年代、ニューディール政策の成果として、米国では格差の大圧縮が起きた。大恐慌以前に24%だった所得税の最高税率が、79%にまで回復した。現在の格差は、金持ち優遇の大減税を行ったレーガン政権の政策によるとする。
土屋氏は、「1970年代の英国国鉄では、合理化計画を提出しても労組に遠慮し政府が動かず、みすみす競争力を失った」という事実を当事者から聞き、当時は「強者への賭け」が正しかったのではないかとする。格差の原因も、技術革新と政治思想、その中間あたりに真実があるのではないかとする。
問題は、経済を喚起する企業家のハングリー精神と強欲(グリード)は紙一重であること。明らかに、情報技術の進歩に伴う金融の技術革新、金融業界の膨張が強欲をあおっていた。近年は、米有名大学卒業生のウォール街入りが増えていたというが、オバマ大統領は「全企業収益の四割を金融部門に依存する」「上位1%の所得が急伸する」「高額ボーナスや目先の利益を追う」ような砂上の経済からの脱却を、大学生に語りかけていたという。
ハングリー精神を喚起し、強欲を制御する・・・、そんな経済モデルへの模索が始まった。
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