Inspired by Nikkei News 20120730
今日の新聞では、社説に企業欄に経済教室に、脱・日本型雇用をうたう記事が複数掲載されている。日本型雇用とは、何であったのか。
新卒段階から長期にわたって社員を雇い、必要な技能や知識を備えた人材を自社で養成するのが日本型雇用だった。若手や中堅のときは賃金を抑え、その後厚くする年功制は、時間をかけて熟練の労働者を育てるのに役立った。長期雇用を通じて会社への帰属意識も高めることができた。
グローバルな人材登用の必要性、マネジメント体系の国際標準化などが進めば、内製型の人材育成、登用は限界を迎えている、評価や処遇、育成の基準をグローバルに統一化する動き(P&Gなどは90年代から導入)をフォローする必要がある、というのが全体の基調だ。
日本型雇用の限界は以前から指摘されながらも、経済の低迷にも解雇ではなく、組合とも協調して時短や賃金抑制で対処して日本的雇用を守るという、コア労働者保護の雇用政策により、ダイナミックなシフトは起きていない。「日本的雇用は、企業が労働者に企業特殊的技能蓄積を促すため、年功賃金と長期雇用のパッケージを提示し、それを信頼して新卒の労働者が参入することに貢献する」というメリットを強調する論調も強い。
しかし、低成長下となり、企業特殊的技能の収益性が低下している昨今ような環境では、「企業が年功賃金のコミットメント(約束)を放棄して中高年の賃金を抑制する誘因が大きくなる」という。約束の反故が散見されるシステムを維持することは困難だ。今後は、三つの視点から、新システムを構想する必要がある。
- 事業のグローバル化
- 世代間の格差
- 女性の活用
事業のグローバル化について、昨今では本社を日本に置く必要があるのか?という点が問われ、「顧客の近くでビジネスを行う」ことが良しとされて、世界各地に本社を置く企業もある。この点について、Harvard大ジャン・リブキン教授は、調査の結果、「顧客に従う」「賃金が安い」と安易に国外への移転を検討されるケースも多く、進出先で生産性が伸びずに悩むケースが多い点を指摘。
国内での改善も視野に生産性を見直すことが、国際戦略の成功にも欠かせない点を「『家の中にとどまれ』ではなく、まず『家の中を良くせよ』」と表現し、「企業はグローバル化の速度ではなく、全体の最適化を競う。米政府は国内を『企業に選ばれる場所』に改善する政策を進める必要がある」、と政治的見地からも主張している。「オフショアよりもニアショア」と国内本拠地の近傍に集積するという戦略も注目に値する。
世代間の格差については、経済教室の一橋大堀雅博が行った、「ねんきん定期便で開示された行政データの活用で、従来よりも高い精度での生涯賃金推計調査」からの指摘が興味深い。「製造業の大企業で正規職員として働く大卒・ホワイトカラーの男性労働者の生涯勤労所得は、70年代半ばに働き始めた世代以降ほとんど増えておらず、特に00年代以降に就職した世代では先輩世代に比べ最大で3割も低くなる可能性がある」という。
この手の分析で注意しなくてはならないのが、世代間の格差の是正という、ゼロサムの再配分ゲームに終始することだ。若手学者は、「世代間の格差を問題指摘するのは、実は若者ではなく、中間にいるミドル層」と見ており、実際に若手は「製造業への依存、正規/非正規という区分の温存などの発想そのものを疑って、今後を描くべき」とより大胆な転換を思想としても求めている。
ただし、このような世代間の状況の違いをふまえて、既得権益の存在により、歪んだマインドセットを生成させていないか、チェックすることは有効だろう。
女性の活用という点については、総合・経済面の「働く母、経済成長のカギ」記事が指摘しているように、眠れる日本経済の活力源をどう活かすかは大事な議論のように思う。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事による、6日の都内での講演は働く母を元気づけるメッセージだ。
「非常に高い教育を受けた女性は、未発掘だがすばらしい資源だ」。日本の女性の労働参加がほかの先進国並みに進めば、日本の生産力は30年までに最大25%増えるとの試算を披露した。
本記事では、保育所の充実をうたうが、ハードウェアの充実だけでは十分でないし、保育所の不足は都市部周辺に限った問題であるとの指摘もある。先ほどの「ニアショア戦略」の発想を取り入れ、地域での雇用創出が解となるケースもあろう。
また、潜在力という点では、「働く母」がどう労働市場に復帰するかが切り口となるが、低成長下で生涯賃金が下がるなか、夫一人で四人を支えるモデルから、夫婦二人で五人(両親を含む)モデルへの転換を切り口にすべきとの議論もある。家族像の変化も、雇用モデルの在り方を変える要因となる。
本稿では、日本型雇用を見直す視点を発散的に提示するという段階で閉じたいと思うが、今後、複眼的に未来の姿を検討する挑戦を続けたい。
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