ブレア政権が実現した成果の一つは、アングロ・ソーシャル・モデルであるといわれる。この政策は、米国型の市場原理にもとづく競争を前提として、北欧型の教育・医療・雇用政策を中心とした公共サービスでの政府の役割を強化することで、個人のインセンティブを引き出しつつ、生活の能力を高める手法。
ブレア政権の言葉を借りれば、単に弱者の生活を保障する「セーフティネット」の再構築ではなく、弱者を再び市場に送り出すための支援という意味で、「トランポリン」「スプリングボード(バネつきの板)と呼ばれる政策を実行。市場での個人の競争力を高め、経済を底上げし、失業問題や貧困問題、さらには少子化への対応を図るというもの。
彼らの基本構想「勤労を通じて経済的に自立し、貧困から脱出する」「教育により個人の市場対応力を高め、機会の平等を確保する」は、そのことを物語っている。
導入のかぎは、以下のとおり。
- 社会保障給付と減税(税額控除)をセットで行う
働き始めると稼得所得に税金がかかり、税引き後の手取りが失業手当よりも少なくなるというという負のインセンティブ解消 - 労働時間と給付をリンクさせる
労働インセンティブを高め、就業を促進する効力を持つ。かつ働かなくても給付が受けられるというモラルハザードの解消 - 所得再分配機能を高める
高所得層に効果が偏る所得控除とこらべ、一定所得以下の世帯を対象とした税額控除は、課税ベースの浸食を少なくし、所得再分配の機能を高めて、財源の無駄遣いが発生しにくい
これらを実現した成功要因は、社会保険官庁と税務当局の一体化など、行政改革を同時進行することである。基準がばらばらな児童手当、生活保護、税金控除を根本的かつ総合的に考える視点が欠かせない。
ブレア政権の内政面での最大の成果は、グローバル化時代における福祉国家や社会的公正に関して新しい可能性を開いたという点にある。生活のリスクを社会化 するという時、二〇世紀に確立した年金、医療保険、無償の公教育、失業保険などの仕組みをそのまま維持するだけでは、二一世紀を生きる人間のリスクに対応 することはできない。若者が職業を見つけ自立すること、配偶者を見つけ子供を育てることなど、かつては当たり前であったことが社会経済的、文化的環境変化 の中でかなり難しい課題になってきている。普通の人間にとって生きにくい社会の中で、個人の自立した生活を支えるためには、経済的基盤だけではなく、個人 の能力を強化する支援策が必要となる。こうした難問に答え、労働党は小さな政府のアングロサクソン資本主義から、社会的英国経済モデル(Anglo Social Model)の構築に向かっている。 ※参照
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