Inspired by Nikkeinews 20090902 経済教室 御厨(みくりや)貴 東大教授
自民党は、長年の与党生活の中で国民に対し包括委任を迫ってきた。具体的政策を優先順位をつけて掲げる(マニュフェスト)が自民党は苦手なのだ。自民党は、選挙のたびに国民から「包括委任」を受け、相矛盾する政策でも、それをそつなくこなし、またつぎの選挙で国民に包括委任を迫るというサイクルを描いてきた。
これは政治家と官僚システムがうまくかみあっていた右肩上がりの時代には、もっともうまく機能していた。
だが右肩下がりの時代、国民から包括委任を取り付けるのは難しい。なぜなら、第一にパイは増えず、第二にパイをどう分配するか、優先順位をつける必要が高まったからである。
今回の選挙では、さまざまな諸説が流れたが、御厨教授はこう分析する。「小選挙区制のもと、劇的な変化がおきやすい、二大政党時代の訪れ」でもなく、「マニュフェスト選挙」でもない、ましてや「55年体制にかわる09年体制が確立した」わけでもない。この選挙の本質は、“自民党パージ(自民党的なる日本への嫌悪感)”であり、(企業献金で政治との関係性を築いてきた)財界、(自民党との間に特殊の関係性を構築してきた)官僚制度ともに、大きな変容が求められているという証である・・・。
とくに、民主、自民の違いとして特徴的なのは「給付の仕組み」であるという。自民が間接的に給付を行い、中間搾取や天下り期間を介在させるのに対し、民主は直接給付で中抜きを図る。
難しいのは、いかに限定されるパイのなかで、優先順位をつけるか、という点にある。
伝統的には、自民党は「汚職、貧乏、暴力の三悪追放」という内政課題を掲げた岸信介政権(国民年金制度や治安対策を実施)や、所得倍増計画と農業・中小企業の保護などを同時に推進した池田勇人政権、列島改造を進めた田中角栄内閣、田園都市構想、文化の時代を標榜した大平正芳内閣、国鉄・電電公社民営化を進めた中曽根康弘内閣など、広範な内政課題に、包括的に対処することで、実績を重ねてきた。
これには、官僚の補佐が必要不可欠で、重要な施策は首相周辺のアイディアでも、政策の細部は、作成・実行ともに官僚のイニシアティブにゆだねられた。
- 政治家は、得意分野をつくり、首相就任前にアイディアを仕込む。
- 官僚は、常に時代を先取りした政策形成の準備を続ける。
これが、自民党政権の官僚主導の政策形成だった。しかし、アジア通貨危機に直面した橋本政権は、旧来型のモデルにのっとり「六大改革(省庁再編、財政構造改革、社会保障改革、教育改革などの包括的改革構想)」を進めていたが、アジア危機を回避することができなかった。包括的政策モデルでは、世界経済のグローバル化による危機の加速的波及に、機動的に対応しきれないことを学んだのである。
小泉内閣が推進した「構造改革」は、一見従来の包括的政策のようで、構成は異なるものである。郵政改革、高速道路の民営化、産業再生気候の設立などは、多数の政策を実行可能性をかんがみ、矢継ぎ早に実行したもので、後からつなぎ合わせて「構造改革」という絵になるとしたのである。
今後は、「実行可能性」という観点と「事後包括的」という観点が、政策構想・実行の鍵を握りそうだ。
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