労働組合の支部執行委員をはじめて五年。やっと本腰を入れて活動をしようと思うようになりました。やってみようと思うと、いかに自分が勉強不足であったかを痛感します。
リサーチをはじめて、一番最初に目が留まったのが、広島電鉄の取り組み。過去、雇用を守るために、会社が不採算事業に陥っていた路面電車事業から撤退しようとしていたものを、組合が自ら労働条件の強化(業務時間の拡大)を訴え、自治体に公共交通機関の使用を呼びかけ、結果として、顧客に選ばれる移動体となり事業を存続させたという歴史を持ちます。
このようなDNAを持った組織では、常識では困難に思えるものを次々と成し遂げていくのですね。2009年10月からは、非正規社員を正社員との同一賃金にすることを実現してしまいました。
小泉改革がもてはやされた時代、企業が国際競争力に勝ち残れるよう、労働条件の見直しが進みました。派遣社員の製造業への適用など、労働人口のうち、非正規労働社員数が大きく膨れ上がるということが、多くの産業で見られました。広島電鉄も、別会社化による労働条件切り下げ、契約社員制度の導入による延命が進み、従業員総数の20%以上を非正規社員が占めるようになりました。
当初、正社員登用制度を組合は提案するが、会社はこれを拒否。とりあえず・・、組合は非正規社員の組織化を進めた。一年間の雇用期間がたち、更新時期のたびに不安を覚えていたという非正規社員。まずは、採用三年後に雇用期間の定めのない契約に行こうする「正社員Ⅱ」の導入にこぎつけた。
しかし、賃金・労働条件は契約社員と変わらない。ここで、会社を動かすためにまとめた労働協約討議がすごい。「賃金水準を上げよ」というだけでは会社は乗ってこない。人件費総額を大きく変化させない方法があるのではないか、という主張で会社を引き込んだのだ。賃金制度を統一、非正規と正規の差を解消することに合意したのである。会社からは、完全な能力型賃金体系で、運転士という役割の中では、経験や年齢などを加味しない、箱型賃金制度が提案された。対して、組合はこれまでの年功型賃金を踏襲しながら、賃金の減額も最小限にとどめながら容認するものととして策定。人件費総額は大きく変えないという主張である以上、職種ごとの上限賃金を設定せざるを得ない。減額に該当する人にも、10年の長期激変緩和措置を盛り込むこととした。新制度導入には、原資の上積みが必要であったが、社長とのトップ交渉で、前年度比5%の増額を獲得。当然、正社員からは「自分たちには恩恵がない」という反発もあったが、「今後、春闘を戦うなかで賃上げも要求しよう、賃金表の書き換えもしよう、減額される賃金との相殺のために、何ができるのかを考えよう」と声をかけて回った。
小泉内閣が牽引した、国際競争力に強い企業を育てようという風潮そのものは、正しい方向性であったように思います。しかし、それはコミュニティ内部での「勝ち組」「負け組」という構造を生むことになりました。勝ち負けではなく、誰もが持続的発展をめざす・・・というビジョンではなかったのです。
私は正社員という雇用条件を得ていますが、今後正規・非正規の労働条件の見直しが進まず、経営が都合よく別会社化による労働条件の切り下げ、契約社員制度の広域適用を進めれば、労働条件の適正化の対話はますますしにくくなっていきます。正社員を内輪と考えるのか、正規・非正規を含む労働者を内輪と考えるのか、私たちはどのようなコミュニティの一員であるべきか、広島電鉄の物語は私たちにパワフルな問いを投げかけてきます。
私たちは、正式社員の正社員化という問題をクリアし、広電の労働運動の歴史に功績を刻むことができた。この間、内部で行ってきた議論についても、後世に語り継ぐ必要を感じている。当たり前となった労働条件も当たり前でなかった時代があることを・・。
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