ハーバード大 リーダーシップ白熱教室の六回シリーズが終了した。教壇に経ったのは、ハーバード大学ケネディ・スクール・オブ・ガバナンスの教授ロナルド・A・ハイフェッツである。
彼自身は、バイアスがあると自重気味に表現するが、彼の理論の根っこには次のようなものがある。一つは、多くの問題の背景には、複雑な相互作用のシステムが存在していると捉えること。もうひとつは、行動様式のかなりの部分は状況への適応を反映していると考えること。「社会的適応という詞は、私たちの価値観や目的に沿って、うまく問題に取り組んでいけるように、組織的、文化的な能力を開発していくこと」と捉える。生物学でいう適応は、単に現状を受け入れたり、新たに出現した悪い環境をあきらめて受け入れる意味で使われるのではない。
第三に、「オーソリティをめぐる人間関係をサービスという要素を通して考える」という。これには、説明が必要であろう。彼はオーソリティとは信任であるという。専門知識を持っている分野で人々が問題を解決するのを手助けすることがオーソリティの役割だが、直面した何らかの問題が許容範囲を超えて、付与されたオーソリティの範囲を超える場合、その人に対する信任の基盤も変化さぜるを得ないということになる。さらに、サービスという考え方は、実用と処方の両方の考え方を同時に持つ事を意味するという。たとえば、会社の社長が自分の力の喪失を訴えた時、「影響力を高める」方法をアドバイスするのは適切ではなく、それは彼が組織にとってやっかいな問題を持ち込んだために、孤立に追い込まれていると考え、問題をとりまくより大きなシステムのなかで分析し、処方する必要がある。
彼は「人々の防衛能力は尊敬に値する」という信念を語っている。逃避していると思われるものも、適応への彼らなりの努力を示しているからだ。精神療法では、苦痛に満ちた状況を直視し、新しい姿勢と行動様式を見いだすことによってうまく環境に適応する。幻想と現実を区別することを学び、こころのうちの葛藤を解決し、過酷な出来事を正しい見方で捉えることを学ぶ。
第一章 リーダーシップに含まれる価値観
「リーダーシップとは、コミュニティがリーダーのビジョンに従うように影響力を及ぼすこと」と「コミュニティが自分たちの問題に取り組むよう影響力を及ぶすこと」。前者では、影響力がリーダーシップの物差しになる。コミュニティは彼を頼りながら問題に立ち向かう。責任は彼に帰す。しかし、一方の後者のリーダーシップのイメージー人々を動かして、難しい問題に取り組ませるーが彼の言う心髄である。ビジョンを示し、影響力を及ぼして、非強制的な方法で実現することを意味する。
リーダーシップ論は、偉人の性格的特徴に解を求める「特性論」にはじまり、ハーバート・スペンサーのような社会的運動の渦自体に興味を持つ「状況論」に展開。その後、合成とも言えるいくつかのアプローチが生まれ「必要条件論」などが生まれた。間もなく、研究の領域は、リーダーと従者間の相互作用に着目した「取引論」へと焦点がシフトした。この四つの一般的なアプローチについて、彼は「価値判断を除外してリーダーシップを客観的に定義しようとしたものであるが、実際には価値観のバイアス(偏り)を暗黙のうちに持ち込んでいる」と指摘する。価値観を無視して、影響力や高い地位を語るなら、単に「傑出度、権力、影響力など、因果関係の力学を単純に描いた方がいい」と、その指摘は明快だ。そこで、彼は価値観を考慮に入れたリーダーシップの定義をしようと提唱する。
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