Inspired by Nikkeinews 20110328 経済教室
武蔵大黒坂教授は、「国際収支の発展段階」という考え方を引用し、米国のような債務国がある一方で、日本は19年連続の世界最大の債権国であることの意味を説明してくれています。
経済発展の初期段階では一国の生産水準が低いために貯蓄が少ない。他方、乏しい資本ストックを増強することで高い投資収益が得られるため、投資機会は豊富に存在する。国民経済計算の枠組みでは経常収支は貯蓄と投資の差額に等しくなる。したがって、貯蓄よりも投資が大きい状況では経常収支は赤字になる。
経済発展のプロセスで投資により資本蓄積が進行すれば、生産が拡大するにつれて貯蓄は増大していく。同時に、資本ストックの希少性が低下して投資収益は減少するので有利な投資機会が枯渇する。その結果、経済発展が高度な段階に達すると、貯蓄が投資を上回り経常収支は黒字となる。この経常収支の黒字の累積が対外純資産の蓄積をもたらすのである。経済発展の段階に応じて貯蓄・投資のギャップが変動し経常収支の黒字・赤字が決まるという考え方である。
本記事から分かるのは、
- 終戦後、急速な経済回復を実現し、70年代には債務返済を終え、海外の貸し付けが借り入れをネットで上回る状態「未成熟な債権国」の段階に至った(〜2004年まで30年間続き、対外純資産の累積進む)
- 2005年以降は、所得収支の黒字(対外資産から利子/配当受け取りと対外債務への利子/配当支払いの差)が貿易収支の黒字を上回る(70年代からの30年間で対外純資産の累積が進んだ結果として)。「未成熟な債権国」の後期の段階に
- 発展段階説に基づけば、国内に投資して生産された財/サービスを輸出し所得を稼得するよりも、海外投資を効率的に行うことで海外から安定的に所得を稼得することが重要という段階にある
という思考が強化されてきているという事実です。黒坂氏は、上記のような現状を見据えた上で、海外投資に振り向けていた巨額の国内貯蓄の一部や、海外からの調達可能な資金を、被災地復興という投資機会へ誘導する金融機能の確立が課題と説いています。
復興のために必要な資金、有限資源は十分にある、これを対外純資産の蓄積をスローダウンしても、国内投資に振り向けることができるか・・・。義援金という一時的な拠出だけではなく、長期的な運用を考えても、効率性を超えた投資機会の選択ができるのか、日本人に問われています。
最近のコメント